建築家・デザイナーを志す方へ
設計という仕事
建築やインテリアの設計という仕事は設計図を描く人というイメージがあるためか、世間では設計士と呼ばれることがよくあります。しかし、この仕事の本質は設計図を描くことでも工事現場を監理することでもなく、その空間をどうつくるか、その空間はどうあるべきか?を発想する仕事なのです。たとえばバーの設計を依頼されたら、まず、家の外で酒を飲む時に人は何を求めているのか、どんな気持ちになりたいのかを考えるのです。
その次に、そのためには何が必要なのかを考え、形にしていくのです。その結果もしかしたらカウンターの代わりに色々な形のソファーがあり、寝転んで酒を飲むバーが出来るかも知れません。このように本当の設計とカウンターのデザインを考える以前のショップコンセプトを発想するところからスタートするのです。自分でああでもない、こうでもないと発想したものを形にしていき、最後に目の前に現実の空間として現れると本当に感動します。
これは何度やっても感動です。そして、その店なり空間が実際に人々に使われ、沢山のお客さんが楽しんでいるシーンに出会ってまた感動です。うれしいから友達を連れて何度も行きます。いい年をして新入社員みたいに、自分の仕事をみんなに自慢したくなるのです。
住宅の仕事は、もっと感動です。なんといっても家族の一生の思い出を作る場を作るのですから。
色々な人から羨ましい職業だと言われます。そういわれるともっともらしく眉間にしわを寄せて「いやいや、実際は苦労ばかりで大変な仕事です…」などということにしているのですが、心の中ではそっとつぶやきます、
「ごめん。この仕事は本当に楽しいよ。」
建築・インテリアの学校で学べること
建築家やインテリアデザイナーを志す人はまず、大学や専門学校などで建築やインテリアのコースをとることを考えるでしょう。
しかし、模型やスケッチなどは所詮デザインの為のツールであり、本質ではありません。ピアノが弾けたり、楽譜が読めたりするからといって誰もが作曲家になれるわけではないように、一級建築士をとってもCADや模型がいくら上手でもそれだけでデザイナーや建築家にはなれません。
本当のデザイン力とは
設計者としての資質でもっとも重要な能力とは、コンセプトメイキングの力とデザインスキルの2つの能力だと私共は考えています。
コンセプトメイキングの力とは、その空間に求められるプログラムを整理し、再構成することでそこに最もふさわしいライフスタイルを発見し、お客様に提案する能力。
デザインスキルとは、そうやって作り上げた新しいコンセプトに基づいて実際の空間や建築を独創的かつ魅力的に作りあげる能力です。
事例を挙げてもう少しわかりやすく説明しましょう。
設計思想や空間のコンセプトがいかに斬新で素晴らしいものであっても出来上がった空間が陳腐なものだったら、魅力ある空間とは呼べません。漫画喫茶やカプセルホテルなどを思い浮かべて頂ければ判りやすいかも知れません。
逆に、空間の使い方やライフスタイルに何一つの新しい提案がないまま、表層のデザインばかり頑張っても「ああ、おしゃれな空間ね」といった程度のものにしかなりません。今、流行のデザイナーズマンションのほとんどがこのタイプでしょう。
このようにコンセプト提案力とデザインスキルは車の両輪のようにどちらがかけてもいけない、デザイナーの重要な能力なのです。実際の設計の現場ではこの2つの能力を駆使して、コンセプトをまとめ上げ、模型やCGや図面で色々な角度から検討しつつ、クライアントへプレゼンテーションを行い、設計チームを率いて設計図を作成し、現場をコントロールしながら実際の建物を作り上げるのが建築家やデザイナーの仕事なのです。
デザインスキルは現場でしか学べない
話が少しわき道にそれますが、ある人が柔道が強くなりたいと思って柔道の本を沢山読んでもきっと強くはなれないでしょう。実際に相手と組み合って投げ飛ばされたり、怪我をしたりするなかでしか強くはなれないでしょう。
デザイン力も同じです。この力は、実際に自分でプロジェクトに取り組んで、現実のプロジェクトの中でしか身につかないのです。
実際のプロジェクトでは模型一つ作るのも真剣ですし、隙間やゆがみがあれば、先輩に一喝されるでしょう。また、ベテランの先輩達が真剣に取り組んでいるデザインの現場で、紙の上から実際の建物が立ち上がる瞬間を体験することで初めて、デザインのなんたるかを知ることができるのです。本当のデザイン力はデザインの現場でしか学べないのです。
しかし、厳しい不況にあえぐ今日の建設業界に未経験者を育てる余裕のある会社は本当に少ないでしょう。雇用する側は即戦力となる人が欲しいのに、その実力を身につける場がないのが現状なのです。
デザイナーへの道をひらく
事務所のHPを作ってから、色々な方から毎日沢山のメールをいただくようになりました。残念ながらほとんどは仕事の依頼ではなく、就職希望のメールですが、よく読めば文面から建築に対する熱い情熱が伝わってくるメールも多く、会ってみたいとか一緒に仕事ができたらなぁと思うようになりました。しかしながら、そこは零細事務所の悲しさ何人ものスタッフを雇える余裕もなく、苦渋の思いでお断りをしていました。
先述の柔道の例を挙げるまでもなく、デザインの仕事でも実際のプロジェクトを経験する方法のみが実力を身につける唯一の方法であることは、プロである私たちが一番よく知っています。それだけに、この道を志す若者を断るのはつらいことでした。
デザインの実務で役立つ本当の実力を身につけたいのにそれを学ぶ場所がない。そこで、
MARIO DEL MAREではオープンデスクという形でその場所を提供しています。
夢を実現する人
最後に、夢を実現する人と出来ない人の違いを教えましょう。夢を実現する人はあきらめない人です。何かを成し遂げようとするとき、出来ない言い訳を見つけるのは簡単です「家が貧しかったから大学にいけなかった。」「私には才能がない」「絵が下手だ」「運が悪かった」等など出来ない理由はいくらでも見つかるでしょう。
しかし、世の中をよく見てみてください。成功者と言われている人たちは、決して最初からすべてに恵まれた人ばかりではない筈です。挫折しても失敗しても決してあきらめなかった人だけが最後には夢を実現するのです。
デザインの世界で働くのは大変です。一般的には長時間労働ですし、低収入です。でも、夢のある仕事が出来ます。自分のアイデアが現実の建物や空間になる素晴らしい仕事だと思います。プロになっても賞をもらっても、いくつになっても日々勉強ですし、いつも新しい挑戦にワクワクしていられます。まさに一生をかけてみるのにふさわしい仕事だと思います。
簡単にあきらめず、是非頑張って欲しいと思います。
BY MARIO DEL MARE
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