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 スタジオのある家
 2002
 


 所在地
東京都中野区
 主要用途 専用住宅
 施工 ㈱大明建設
 工事面積 182㎡(55坪)
 竣工 2002年



 
 
 
 
 


スタジオのある家

ご要望はスタジオと
3台分の駐車スペース?

中野区の閑静な住宅地に建つRC造の専用住宅です。お客様のご要望は「1,二人の息子さんの為にドラムがたたける本格的な防音室が欲しい。2,息子さんたちが独立した後でも気軽に車で帰省できるように家の車も含め、最大3台の車が停まれるようにしたい。」というものでした。「息子さんの為に音楽スタジオ」さらに「3台分の駐車場」と聞いてこれは困ったと思いました。自宅の音楽スタジオといえば、有名女優の息子が自宅の地下の音楽スタジオで大麻パーティーをやった事件が思い出され、いいイメージがありませんでしたし、郊外ならともかく、都心の一等地で3台分も駐車スペースを確保するのはもったいないという思いがありました。
 早速、当時お住まいだったマンションを拝見させていただくと、息子さんたちの楽器類が子供部屋に入りきらず、リビングやダイニングにもあふれていました。その為、お父さんがTVを見ている横で息子さんがヘッドホンでエレキの練習をしたりと、リビングルームに家族全員が集まっていて、とてもいい雰囲気のご家庭でした。

「家を作って子を失う」とならないように
家族それぞれが好きなことをしているのだけれども、リビングという空間を共有することにより、家族がバラバラにならずいいコミュニケーションが取れていると私は判断しました。そこで今回の新築で防音スタジオを造ることで、息子さん達がスタジオにこもりっきりになり、家族のコミュニケーションが取れなくなってはいけないと思いました。
 
実際、家を建て子供部屋が充実した結果、子供達が部屋から出てこなくなり、円満なコミュニケーションが取れなくなくなる家庭は珍しくないのです。ましてや今回は音楽スタジオというきわめて閉鎖性を要求される部屋なのです。
 
一般的に、スタジオなど遮音性の高い空間を作りたければ地下に埋めてしまうのが一番簡単です。しかし、先述の事件に代表されるように、親の目の届かない空間を子供達自由にさせることは問題行動を誘発する恐れがありますし、子供達がスタジオにこもれば、それだけで親子の会話はほとんどなくなってしまう恐れもあります。また、災害時など、その高い遮音性が災いして逃.げ遅れることにはならないでしょうか。

家族とコミュニケーションできるスタジオを作りたい
きちんとした遮音が出来るスタジオでありながら家族のコミュニケーションを活性化できるようなスタジオは作れないか。色々と考えた末、リビングルームの一部を大きなガラスで仕切り、音楽スタジオにする案にたどり着きました。しかし、幅3m高さ2.5mもあるガラス開口部では充分な遮音性能が確保できない恐れがありました。ヤマハなど音楽スタジオ専門業者をいくつもあたりましたが、せいぜい1m×1m程度の窓をつくるのが精一杯と言われました。
 
結局、床・壁・天井とも、建物から浮いた状態になるような箱をリビングのとなりに作り、ガラス面は3枚ガラスしかも、一枚づつ角度をつけて共鳴を防ぐ方法を考えました。しかし、ドラムの音は非常に大きいので、ガラス面の遮音が計算上あと少し不足でした。
 
そこで、リビングルームを含む家全体の遮音効果を計算に入れて、再計算してみました。するとスタジオからリビングにガラス面から多少音がリークしても、リビングから外部へは音が出ないという計算結果がでて、これでいこうということになりました。

家全体がひとつの廊下
次に考えたのは帰宅して手を洗って着替えたり部屋に行ったりする際に必ずスタジオのあるリビングやダイニングを通るような家全体が廊下でもあるような間取りを考えました。
 
こうすることで家族が顔を合わせる機会が増え、家族のコミュニケーションが活性化することを期待したのです。

機能的に家事が出来る為の工夫
家とは生活する為のマシンでもあるので、機能的に家事が出来ることも重要視しました。外部からは見えない場所に透明な庇のある物干しスペースを設け、洗面所からダイレクトに出られるようにしたり、洗面所に隣接してウォークインクローゼットがあり、着替えや洗濯物の整理もスムースに行えるように考慮しました。また、普段は使わない客間は、来客のない時は、廊下に面した引き戸を全開することで庭に面した縁側的な空間にもなり、また、ウォークインクローゼットからも出入りできるので共有の着替えスペースにもなるように計画しました。

キッチンは家族の管制塔
キッチンはリビングダイニング、そしてスタジオを一望できる場所に設けキッチンカウンター内側はインフォメーションボードとなりカレンダーや家族の予定を貼り付けたりして使えるよう工夫しています。また、カウンター内側に小さなTVを埋め込み、まるで飛行機の管制塔のような機能的なキッチンとなっています。

機能的で美しいオリジナル家具
リビングダイニングの壁面収納やキッチンカウンター・ダイニングテーブルなどは「マリオデルマーレ」のオリジナル家具です。ダイニングテーブルはキッチンカウンターと一体化したデザインでありながら来客時はエクステンションすることで最大2メートルまで伸ばせるようにしました。また、壁面収納は電話やパソコン用のLANコネクターなども組み込み、生活に必要な機器が美しくかつ機能的に収納されるように工夫されています。

家族バンドも夢じゃない?
竣工後、お客様がお住まいになられてからも数ヶ月に1度くらいのペースですが近くに行くときはお寄りしています。あるとき、スタジオにアコースティックギターがおかれていました。息子さんたちのギターはエレキギターばかりだったので、おや?と思ってみていたら、奥様がニコニコと理由を話してくれた。アコースティックギターの持ち主は実はご主人だったです。引っ越してしばらくは2人の息子さんたちのセッションをニコニコとご覧になっていたご主人がある晩、自分用にギターを買って帰ってきたのだそうです。
 
それ以来、休日にご主人がスタジオでギターを弾き始めると息子達がドラムやエレクトーンで伴奏するようになったのだそうです。「ちょっといい絵になってますよ」と奥様もうれしそうでした。
 
また、貸しスタジオなどに仲間と通うかわりに友達を家に連れてくるようになり、リビングのスタジオで息子さんと仲間が練習している姿を家事をしながら眺めるのも楽しいようです。時には夜遅くまで息子さんが練習をしていることも時々あり、そんなときにご主人が一杯やってご帰宅されたりすると、いきなり息子さんたちの生演奏をバックにご主人様の歌謡ショーになってしまうこともあるそうです。このままでは親子バンドがデビューの日も近そうですね。
 
世の中、親子の断絶とか家庭崩壊とか暗いニュースが多いですが、このご家族ならきっと息子さん達が自立して家庭をもってもギターをもって集まって来そうな気がします。
 
設計をご依頼頂いたとき、「子供達の為に自宅にスタジオを造るなんて贅沢!」なんて思ってしまいましたが、こんな素敵な親子になれるなら本当に造ってよかったと思います。
 
いやはや、自宅にスタジオというお客様の大胆な決断、よろこびずむな発想に脱帽です。


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